magoroku@tnnt

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虚子君へ      夏目漱石

昨日は失敬。こう続けざまに芝居を見るのは私の生涯《しょうがい》において未曾有《みぞう》の珍象ですが、私が、私に固有な因循《いんじゅん》極まる在来の軌道をぐれ出して、ちょっとでも陽気な御交際《おつきあい》をするのは全くあなたのせいですよ。それ...
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学者と名誉     夏目漱石

木村項《きむらこう》の発見者|木村《きむら》博士の名は驚くべき速力を以て旬日《じゅんじつ》を出ないうちに日本全国に広がった。博士の功績を表彰《ひょうしょう》した学士会院《がくしかいいん》とその表彰をあくまで緊張して報道する事を忘れなかった都...
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永日小品     夏目漱石

元日  雑煮《ぞうに》を食って、書斎に引き取ると、しばらくして三四人来た。いずれも若い男である。そのうちの一人がフロックを着ている。着なれないせいか、メルトンに対して妙に遠慮する傾《かたむ》きがある。あとのものは皆和服で、かつ不断着《ふだん...
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一夜      夏目漱石

「美くしき多くの人の、美くしき多くの夢を……」と髯《ひげ》ある人が二たび三たび微吟《びぎん》して、あとは思案の体《てい》である。灯《ひ》に写る床柱《とこばしら》にもたれたる直《なお》き背《せ》の、この時少しく前にかがんで、両手に抱《いだ》く...
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マードック先生の『日本歴史』 夏目漱石

上  先生は約《やく》の如く横浜総領事を通じてケリー・エンド・ウォルシから自著の『日本歴史』を余に送るべく取り計《はから》われたと見えて、約七百頁の重い書物がその後|日《ひ》ならずして余の手に落ちた。ただしそれは第一巻であった。そうして巻末...
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それから     夏目漱石

一の一  誰《だれ》か慌《あは》たゞしく門前《もんぜん》を馳《か》けて行く足音《あしおと》がした時、代助《だいすけ》の頭《あたま》の中《なか》には、大きな俎下駄《まないたげた》が空《くう》から、ぶら下《さが》つてゐた。けれども、その俎《まな...
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『それから』予告   夏目漱石

色々な意味に於てそれから[#「それから」に傍点]である。「三四郎」には大学生の事を描《かい》たが、此《この》小説にはそれから先の事を書いたからそれから[#「それから」に傍点]である。「三四郎」の主人公はあの通り単純であるが、此主人公はそれか...
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こころ      夏目漱石

上 先生と私     一  わたくしはその人を常に先生と呼んでいた。だからここでも5166 4523 2186 5875166 4523 2186 587ただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚《はば》かる遠慮というよりも、そ...
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ケーベル先生の告別  夏目漱石

ケーベル先生は今日《きょう》(八月十二日)日本を去るはずになっている。しかし先生はもう二、三日まえから東京にはいないだろう。先生は虚儀虚礼をきらう念の強い人である。二十年前大学の招聘《しょうへい》に応じてドイツを立つ時にも、先生の気性を知っ...
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ケーベル先生   夏目漱石

木《こ》の葉《は》の間から高い窓が見えて、その窓の隅《すみ》からケーベル先生の頭が見えた。傍《わき》から濃い藍色《あいいろ》の煙が立った。先生は煙草《たばこ》を呑《の》んでいるなと余は安倍《あべ》君に云った。  この前ここを通ったのはいつだ...