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私の経過した学生時代  夏目漱石

一  私の学生時代を回顧して見ると、殆《ほと》んど勉強と云う勉強はせずに過した方である。従ってこれに関して読者諸君を益するような斬新《ざんしん》な勉強法もなければ、面白い材料も持たぬが、自身の教訓の為め、つまり這麼《こんな》不勉強者は、斯《...
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三四郎     夏目漱石

一  うとうととして目がさめると女はいつのまにか、隣のじいさんと話を始めている。このじいさんはたしかに前の前の駅から乗ったいなか者である。発車まぎわに頓狂《とんきょう》な声を出して駆け込んで来て、いきなり肌《はだ》をぬいだと思ったら背中にお...
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三山居士     夏目漱石

二月二十八日には生暖《なまあた》たかい風が朝から吹いた。その風が土の上を渡る時、地面は一度に濡《ぬ》れ尽くした。外を歩くと自分の踏む足の下から、熱に冒《おか》された病人の呼息《いき》のようなものが、下駄《げた》の歯に蹴返《けかえ》されるごと...
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作物の批評    夏目漱石

中学には中学の課目があり、高等学校には高等学校の課目があって、これを修了せねば卒業の資格はないとしてある。その課目の数やその按排《あんばい》の順は皆文部省が制定するのだから各担任の教師は委託をうけたる学問をその時間の範囲内において出来得る限...
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行人     夏目漱石

友達         一  梅田《うめだ》の停車場《ステーション》を下《お》りるや否《いな》や自分は母からいいつけられた通り、すぐ俥《くるま》を雇《やと》って岡田《おかだ》の家に馳《か》けさせた。岡田は母方の遠縁に当る男であった。自分は彼が...
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坑夫      夏目漱石

さっきから松原を通ってるんだが、松原と云うものは絵で見たよりもよっぽど長いもんだ。いつまで行っても松ばかり生《は》えていていっこう要領を得ない。こっちがいくら歩行《あるい》たって松の方で発展してくれなければ駄目な事だ。いっそ始めから突っ立っ...
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虞美人草     夏目漱石

一 「随分遠いね。元来《がんらい》どこから登るのだ」 と一人《ひとり》が手巾《ハンケチ》で額《ひたい》を拭きながら立ち留《どま》った。 「どこか己《おれ》にも判然せんがね。どこから登ったって、同じ事だ。山はあすこに見えているんだから」 と顔...
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幻影の盾     夏目漱石

一心不乱と云う事を、目に見えぬ怪力をかり、縹緲《ひょうびょう》たる背景の前に写し出そうと考えて、この趣向を得た。これを日本の物語に書き下《おろ》さなかったのはこの趣向とわが国の風俗が調和すまいと思うたからである。浅学にて古代騎士の状況に通ぜ...
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琴のそら音   夏目漱石

「珍らしいね、久しく来なかったじゃないか」と津田君が出過ぎた洋灯《ランプ》の穂を細めながら尋ねた。  津田君がこう云《い》った時、余《よ》ははち切れて膝頭《ひざがしら》の出そうなズボンの上で、相馬焼《そうまやき》の茶碗《ちゃわん》の糸底《い...
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京に着ける夕   夏目漱石

汽車は流星の疾《はや》きに、二百里の春を貫《つらぬ》いて、行くわれを七条《しちじょう》のプラットフォームの上に振り落す。余《よ》が踵《かかと》の堅き叩《たた》きに薄寒く響いたとき、黒きものは、黒き咽喉《のど》から火の粉《こ》をぱっと吐《は》...